焼酎の基礎知識地理的表示の産地
「壱岐焼酎」「球磨焼酎」「薩摩焼酎」「琉球泡盛」はいずれも世界貿易機関(WTO)のトリプス協定に基づく〈地理的表示の産地〉を受け、国際的にブランドが保護されています。つまり定められた地域で、定められた製法でつくられたものだけが、これらの産地を冠した呼称を使うことができるというもの。ワインの「ボルドー」、発泡性ワインの「シャンパン」、ウイスキーの「スコッチ」などと並ぶ銘酒として、世界に認められています。
地理的表示「壱岐」
壱岐は麦焼酎発祥の地
長崎県壱岐市は、九州北方の玄界灘にある壱岐島を中心とした群島にあり、玄武岩層によって長い年月をかけて磨かれた地下水が豊かな地域です。壱岐の地下水により発酵が順調に促され、「壱岐」に厚みのある味わいを与えるほか、割水に用いることによりキレの良い飲み口を引き立たせています。
また、歴史の記録の上で、麦を原料とした焼酎は、長崎県壱岐市のものが最も古く、日本における「麦焼酎発祥の地」とされています。「壱岐」は伝統的に米こうじと大麦から製造され、その原料は1:2の比率で用いられており、この伝統的な製法が「壱岐」の特性を確立させている1つの要因となっています。
麦の香りと米こうじの甘みと厚みのある味わい
単式蒸留焼酎である「壱岐」は、麦由来のさわやかな香りと米こうじの甘く厚みのある味わいを有しています。
また、原料の水に由来するキレの良い飲み口を有しています。
地理的表示「球磨」
焼酎製造に適した球磨盆地の気候風土と球磨川水系の水
熊本県球磨郡及び同県人吉市は、九州中央部の九州山地に囲まれた球磨盆地にあり、日本列島では低い緯度でありながら冬季の平均気温が低く、寒暖の差が大きい。濃霧の日も多く、この環境により、比較的低温での発酵及び適度な環境による貯蔵が可能となり、清涼感のある香味を有する焼酎の製造に適しています。
また、球磨盆地を流れる球磨川水系の水は、焼酎製造に適した軟水であり、「球磨」は、この地域の水を使用することにより、米由来のまろやかな甘さを引き立たせています。
米由来のまろやかな甘さを感じる米焼酎
単式蒸留焼酎「球磨」は、総じて米由来のまろやかな甘さを感じる味わいと清涼感のある香味を有しています。
その中でも、常圧蒸留したものは香ばしさを伴った米特有の香りを有しており、減圧蒸留したものは、果実様の香りを有しています。
地理的表示「琉球」
黒こうじ菌が生成する琉球の特性と
沖縄の水が育む重厚な香味
沖縄県は高温多湿の気候で降水量も多い環境であるが、他のこうじ菌に比べクエン酸を多く生成する黒こうじ菌により健全な発酵が促され、その黒こうじ菌が生成する種々の成分により特性が形成されています。また、水も硬水でミネラル分が多く、微生物の働きが促進され、重厚な香味が形成されます。
琉球王国当時に交易国との文化交流から様々な技術がもたらされており、蒸留酒の製法は500年以上前に東南アジアや大陸から伝来したと言われています。
また、蒸留後に年月をかけて熟成する文化があり、3年以上貯蔵したものは「古酒(クース)」と呼ばれ、古酒を育てる「仕次ぎ」と呼ばれる技術も定着しています。
米こうじに由来する芳醇な味わい
「琉球」は、黒こうじ菌を用いた米こうじ及び水を原料として発酵させたもろみを、単式蒸留機により蒸留した蒸留酒であり、原料の米こうじに由来する適度な油分による芳醇な味わいを感じることができます。
特に、常圧蒸留したものの古酒(3年以上貯蔵したもの)は、黒こうじ菌の酵素により米から生じる成分に由来する甘いバニラ様の香りや松茸様の香り等が調和した、濃厚で奥の深い香りを有しています。
地理的表示「薩摩」
鹿児島県の気候風土と醸造技術向上への取組
シラス台地が広く分布している鹿児島県は、水はけがよく地下水位が低い地域が多く、さつまいもの栽培に適していることから、江戸時代以降、さつまいもが広く栽培されており、日本最大の生産地である。このため、安定して原料のさつまいもが確保できる鹿児島県は、さつまいも焼酎の産地として適した地域です。
「薩摩」の製造技術は、鹿児島県工業技術センターが中心となり技術開発・普及に当たっているほか、鹿児島大学の焼酎・発酵学教育研究センターにおいてもさつまいも焼酎の研究開発や人材育成を行っています。
華やかで芳醇な香りを有する芋焼酎
単式蒸留焼酎「薩摩」は、原料のさつまいもの産地と焼酎の製造地が同じ鹿児島県のため、良質で新鮮なさつまいもを使用することができます。「薩摩」は、華やかで芳醇な香りを有し、その香りと調和した甘く濃厚な味わいが特徴である。また、蒸留直後からなめらかな口当たりを有しています。
地理的表示「東京島酒」
麦こうじに由来する香味とやわらかで軽快な後口
東京島酒は、「麦こうじ」を使用することを特徴とする本格焼酎で、「芋焼酎」「麦焼酎」「芋麦ブレンド焼酎」の3種類があります。
麦の香ばしさや草木のような清涼感のある香りがあり、やわらかで軽快な後口の中にコクと旨味が感じられます。
脂の乗った魚の刺身や特産の「くさや」とも合うなど、食中酒にも適しています。
太平洋の火山島が育む優しい口当たり
東京島酒の製法は、江戸時代末期に薩摩の商人によって伝えられたとされています。
伊豆諸島は、焼酎の製造期(秋〜冬)においても比較的温暖であることから、醪の発酵が旺盛に進むなど、焼酎製造が定着しやすい環境にありました。
この温暖な気候は、貯蔵期に原酒への油分の溶け込みを促し、島内で製造される焼酎にコクと旨味を与えています。
また、伊豆諸島は年間降水量が多く小面積の火山島であることから、製造に用いられる水は、地質由来のミネラル分の溶け込みが少なく、これによりやわらかな後口が生み出されています。
名称 | 指定日 | 特性 | 産地の範囲 |
---|---|---|---|
壱岐 | 平成7年6月30日 (1995年6月) |
麦焼酎 麦の香りと米こうじの甘みと厚みのある味わい |
長崎県壱岐市 |
球磨 | 平成7年6月30日 (1995年6月) |
米焼酎 米由来のまろやかな甘さを感じる味わいと清涼感のある香味 |
熊本県球磨郡および、人吉市 |
琉球 | 平成7年6月30日 (1995年6月) |
泡盛 米こうじに由来する芳醇な味わい |
沖縄県 |
薩摩 | 平成17年12月22日 (2005年12月) |
芋焼酎 さつまいも特有の華やかさと芳醇な香りが調和し、甘く濃厚な味わい |
鹿児島県(奄美市および、大島郡を除く) |
東京島酒 | 令和6年3月13日 (2024年3月) |
芋焼酎/麦焼酎 麦こうじに由来する香味とやわらかで軽快な後口 |
東京都伊豆諸島(大島町、利島村、新島村、神津島村、三宅村、御蔵島村、八丈町および、青ヶ島村) |
- 国税庁「お酒の地理的表示(GI)を知っていますか?」2024年3月版,P41〜50
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sake/03.pdf